オーストラリアの恵みで「恵方巻き」をつくるということ

― 伝統を“守る”のではなく、“つなぐ”という選択 ―

節分は、日本では「無病息災」を願う大切な行事です。
豆まきをし、恵方を向いて恵方巻きを食べる。
多くの人が子どもの頃から当たり前のように触れてきた、日本の食文化の一つでしょう。

では、その文化を日本の外で生きる私たちは、どう受け取ればいいのでしょうか。


「日本と同じもの」を再現するだけが、正解なのか?

海外で日本食を伝える活動をしていると、よくこんな問いにぶつかります。

  • 日本と同じ材料が手に入らない
  • 味や見た目をどこまで再現すべきか
  • それは“本物”なのか?

もちろん、伝統を正確に伝えることは大切です。
しかし同時に、私はこうも思います。

文化は、土地に根を張ってこそ、生き続けるのではないか。


オール・オーストラリア食材でつくる恵方巻き

今年の節分、私たちは
「オーストラリアの食材だけで、恵方巻きを再構築する」
という試みを行いました。

七福神にちなんだ、7つの食材です。

  • Lebanese Cucumber
    日本のきゅうりに近い食感。体を整える、爽やかな役割
  • Roasted Beetroot
    鮮やかな色彩と、ポリフェノールの力
  • Portobello Mushroom
    バルサミコと黒糖でソテー。椎茸に勝るとも劣らない旨味とβグルカン
  • Pan Fried Halloumi
    焼いたハルーミの弾力を、卵焼きの新しい解釈として
  • Tasmanian Salmon
    EPA・DHAを豊富に含む、オーストラリアが誇る健康的な魚
  • Tiger Prawn
    ぷりぷりの食感と、赤色の縁起の良さ
  • Pickled Yellow Capsicum
    たくあん代わりのポリポリ感。ビタミンCで全体のバランスを

料理人の遊び心と、その土地の知恵

隠し味として、
ベジマイトを、わさびの代わりに使いました。

寿司酢には、
アップルビネガー × ウイスキーを少量加え、
オーストラリアらしい奥行きを。

「日本らしさ」を失わないために、
あえて“日本と同じにしない”。

それもまた、料理人としての一つの誠実さだと考えています。


南南東は、オーストラリアだった

今年の恵方は「南南東」。

世界地図を見てみると、
日本から見た南南東の先にあるのが、オーストラリアです。

この土地で、
この方向を向いて、
この恵方巻きを食べる。

そこに、言葉では説明しきれない不思議な縁を感じました。


文化を「保存」するのではなく、「循環」させる

私たちが目指しているのは、
日本食を“そのまま輸出する”ことではありません。

  • その土地の食材を尊重する
  • その土地の人が理解できる形に翻訳する
  • それでも、日本文化の核は失わない

伝統を守るとは、変えないことではなく、意味を失わせないこと。

オーストラリアの恵みでつくった恵方巻きは、
その一つの実践例です。

(正直、味は地味に美味しかったです。
盛り付けは……次回への伸びしろということで。)


食文化は、人と土地をつなぐ

日本の行事を、
今いる土地の食材でつくる。

それは、日本を薄めることではなく、
むしろ日本文化を長く生かすための選択だと、私たちは考えています。

この小さな一皿が、
食を通じて文化が循環していく未来につながることを願って。

Takumi Kawano

President

日本で懐石料理を修業し、米国・豪州で料理長・総支配人として活躍。 医学・栄養学の視点を融合し、次世代の日本料理の可能性と知識継承に取り組んでいる。 Trained in Kaiseki cuisine in Japan, he served as Executive Chef and General Manager in the U.S. and Australia, sharing Washoku culture. Integrating medicine and nutrition, he explores the future of Washoku and is dedicated to passing on its knowledge.