和食を世界に広める ― 三つの時代から見る食文化の未来 ―

日本料理を日本国内だけでなく、

「どの国に行っても同じように食べられるようにする」

あるいは 「和食の精神を世界に広める」 ためには、

大きく三つのステップがあると私は考えています。

 

第一ステップ:和食の再認識の時代(戦後〜21世紀前半)

まず必要なのは、私たち日本人自身が和食を正しく理解することです。

「和食とは何か?」「日本の食材とは何か?」「料理と文化の関係は?」

こうした問いを改めて見つめ直す時期です。

 

海外で暮らして感じるのは、日本の食材の質や料理技術の高さ、

そしてそれを支える文化的な土台の豊かさです。

 

しかし一方で、海外では「寿司を食べたことがない」「生魚は苦手」という人もまだ多くいます。

 

実際に食べてもらうと「とても美味しい!」と驚かれることが多く、

それだけ“本物の和食”がまだ十分に知られていないという現実があります。

 

つまり、和食は「すでに世界に浸透している」と思い込んでいるのは、

私たち自身の錯覚かもしれません。

 

これは脳の働きである**網様体賦活系(もうようたいふかつけい)**により、

自分に関係する情報を過大に捉えてしまう現象といえます。

 

この時代は、海外へ和食を広めるための「力を蓄える時期」。

 

料理人が知識・経験・技術を深め、

日本国内と海外の両面で基盤を築いていく時代です。

 

和食を伝える方法は主に2つあります。

• 日本に外国人を招き、国内で和食を伝える方法

• 日本人が海外に出て、現地で和食を伝える方法

どちらも、和食を広める上で欠かせない両輪です。

 

第二ステップ:興味と浸透の時代(21世紀前半〜)

私たちがいま生きているのは、まさにこの時代の後半です。

 

この時期を象徴するのが Sushi Roll(寿司ロール) の誕生です。

カリフォルニアロールのように、

海外の感性でアレンジされた寿司が現地で受け入れられ、

やがて日本にも逆輸入されました。

 

このステップの本質は、「和食の常識を外すこと」

 

和食がここまで浸透したのは、

“そのままの形”ではなく、“現地の文化に合わせて柔軟に変化した”からです。

 

この時代の後半には、

「現地に合わせて和食を改良する人」と

「正統な日本料理を伝える人」が共存し、

それぞれの立場から和食を発信しています。

 

やがて、イタリアンやフレンチにも和の要素が自然に取り入れられ、

日本人以外の料理人が“和の精神”を理解し、表現する時代へと移り変わっていきます。

 

それは単なる“日本食ブーム”ではなく、

文化としての和が世界で共鳴する現象なのです。

 

 

第三ステップ:革新と拡散の時代(21世紀中期〜)

これから訪れる未来の時代。

それは、**「和食という概念がなくなる時代」**です。

 

国やジャンルの境界が消え、

日本料理・フレンチ・中華といった分類を超えて、

世界中の料理がひとつに溶け合う時代。

 

「和食だからこうあるべき」という固定観念から自由になり、

誰もがどこにいても、何でも表現できるようになります。

 

そのとき、日本料理は“世界の名物”としてさらに広がりますが、

同時に“本質を見失う迷いの時代”でもあるでしょう。

 

そしてまた新たに、第一ステップ「再認識の時代」が巡ってくるのです。

 

まさに 食のクロノクロス(Chrono Cross) ―

時を超えて重なり合う食文化の進化です。

 

 

三つの時代のまとめ

第一ステップ: 再認識の時代(戦後〜21世紀前半) +(プラス) 学び・吸収・成長の時期

第二ステップ :興味と浸透の時代(21世紀前半〜) −(マイナス) 削ぎ落とし・本質の追求

第三ステップ :革新と拡散の時代(21世紀中期〜) ×(かけ算) 融合と共創の時代

これはまさに「守・破・離」の原理であり、

自然界の循環そのものでもあります。

 

これからのテーマは「教育」

情報があふれる時代だからこそ、「どうやって伝えるか」 が問われています。

 

正しい知識を持つ人が、知らない人に伝えること。

 

それが次の時代を形づくる“教育”であり、そして“和の精神”を未来へつなぐ行為です。

 

おもてなしの心、相手を想う料理。

それらを通して“和”を世界へ広げる人々が、

やがて世界の調和を導いていくでしょう。

私たちはその流れの真っただ中にいます。

 

未来を見据えながら、いまこの瞬間にできることを実践すること―

それこそが、食を担う私たちの使命なのです。

 

Washoku Oceania Network(WON) は、

この“和食の三つの時代”を軸に、日本料理の技と精神を次世代へつなぐ活動を続けています。

Takumi Kawano

President

日本で懐石料理を修業し、米国・豪州で料理長・総支配人として活躍。 医学・栄養学の視点を融合し、次世代の日本料理の可能性と知識継承に取り組んでいる。 Trained in Kaiseki cuisine in Japan, he served as Executive Chef and General Manager in the U.S. and Australia, sharing Washoku culture. Integrating medicine and nutrition, he explores the future of Washoku and is dedicated to passing on its knowledge.