料理の裏側|シェフのリアルに触れる、本音対談 Vol.4

「料理は愛情」— 海外で進化し続ける鮨職人・堀川顕の哲学

日本、シンガポール、そしてオーストラリアへ。
30年以上にわたり和食と鮨の道を歩み続けてきた料理人・堀川顕(ほりかわあきら)氏。

異なる文化の中で磨かれてきたその料理観は、決して奇をてらうものではなく、あくまで「シンプル」で「人に寄り添う」もの。

今回は、海外で活躍する料理人としてのリアルと、その根底にある想いについてお話を伺いました。


■プロフィール

自己紹介をお願いします。

堀川顕と申します
この世界に入って約30年。基本的には和食。
最初は割烹に入って基本を学んで、その後はほぼすし屋ですね。
そして日本、シンガポール、オーストラリアとキャリアを積みました。


■原点ときっかけ

料理の道に進んだきっかけは何ですか?

今までを振り返ると、子どもの頃からこれまで関わってきたいろいろな人たちの影響を受けて、
この世界に入ったのだと感じています。

和食とかお寿司に進むきっかけとして、中でも特に印象に残っているのは、
子どもの頃、近くに横田基地っていう米軍基地のがあって、そこに英会話で通う機会があって、
そのBBQイベントに参加して、そのとき米軍基地の方に言われた一言です。

「何か日本のことやってよ?」と聞かれたときに、
日本のことが何もできない自分にハッとしたんです。

当時16-17歳でしたが、
それまで私はアメリカへの憧れが強く、日本にあまり目を向けていませんでした。
その一言が、和食や鮨の世界へ入るきっかけのひとつになったと思います。

料理は家で作ったことはありましたし、好きではありましたが、この件で今の道に進もうと決めました。


■転機と海外への挑戦

これまでのキャリアで“転機”になった出来事はありますか?

いくつかあるんですけど、海外にくるきっかけは、

久兵衛の友人が、メキシコで働いていて、メキシコで自分の店をオープンするってタイミングで、

その店の後釜を探していて、それで、「自分でもいいすか?」と聞いたら、もちろん大歓迎ですって言われて、

その時は面接まで進んだんですが、結局その話は無くなってしまって。

でもそれがきっかけで海外に強く興味を持ち、海外で仕事を探すようになりました。

それが6年前くらいです。


■海外で磨かれた料理観

今の料理スタイルに影響を与えた人物・文化・土地はありますか?

シンガポールで出会ったお客様です。

もともとお客様に合わせて料理やお寿司を提供することは意識していましたが、
海外では「ベースを守りながら、その土地のお客様にとって一番美味しいと感じていただける形にする」という意識がより強くなりました。

あとシンガポールでは中華系のお客様も多かったので、自然とその方々の好みに合わせて調整するようになりました。

それはどのように変えたんですか?

味で言うと、日本と同じ味付けだと、『少し濃い』『強い』と感じる方が多かったので、醤油を少し薄くしたり、あえて味をやさしくしたりしていました。

あとは、温かい料理を多く出してますね。
いまは茶碗蒸しとか、塩焼きの魚なども、その下に貝のあんかけみたいにして、なじみのある感じにしています。


■料理哲学

料理をつくるときに常に意識していることは何ですか?

召し上がってくださる方のことです。

昔、有名な料理人の方が「花に水、人に愛、料理は愛情」とよくおっしゃっていました。
いくら美味しいものを作っても、本当に楽しんでいただくためには、食べてくださる方への愛情がベースにないと難しいと感じています。


「自分らしい料理」と感じるポイントはどこですか?

一言で言えば「シンプル」です。

食材そのものが持っている美味しさを、素直に伝えられるように心がけています。
例えば鯛であれば、鯛そのものの美味しさや“鯛らしさ”をしっかり感じていただけることが大切だと思っています。


素材を選ぶ際に、最も大切にしている基準は何ですか?

食材が持っている力を見極めることです。

同じ食材でも一つひとつ個性があります。その個性を見極めたうえで、自分の目指す方向性に合っているか、そして自分がその食材を扱いきれるかどうかも含めて判断しています。


■技術と挑戦

オーストラリア食材を使うときに工夫していることは?

魚に関して言えば、質の良いものは多いと感じています。
ただし処理の仕方に差があるため、その時々の状態に合わせて手当てをするようにしています。

例えば、日本ではフィレにした魚を水で洗うことは基本的にありませんが、私は状態によっては水で洗うこともあります。


伝統技法と新しい発想を組み合わせる際に意識している点は?

自分自身が実際に食べて美味しいと思えるかどうか、そしてやり過ぎていないかです。

例えばチーズの茶碗蒸しも、何度も試作を重ねて、本当に美味しいと感じられるバランスを探りました。


最近取り組んだ新しい技術・挑戦はありますか?

最近のメニューでは、お口直しのそうめんに25年物のバルサミコを使用しました。

隣にイタリアンレストランがある環境もあり、これまで使ったことのない食材や素材に挑戦できる機会には恵まれていると感じています。


■体験としての料理

料理に“驚き”や“感動”を生み出すために工夫していることは?

料理そのものは純粋に美味しいと感じていただくことを大切にしているため、驚きを狙って作ることはあまりありません。

ただし、タイミングによってはマグロを塊の状態でお見せし、目の前でサク取りしてそれを目の前で切り付けして握ってお出しすると言う、体験としての価値を提供することはあります。


■喜びと試練

この仕事を続けるうえで、一番の喜びは何ですか?

お客様が「美味しい」と言ってくださるその瞬間です。

この仕事は長時間で大変なことも多いですが、その一言ですべてが報われます。その瞬間のためにチーム全員で力を尽くしています。


苦しかった時期や乗り越えた経験はありますか?

色々ありますが、

最近では、まず右手が腱鞘炎になって動かしづらいと思ってたら、
あるとき転んで、へんな感じで左手を地面についてしまって、、、

ちょうどサポートしてくれる人も長い休みを取っていて、
右手首と左手を負傷した状態で仕事を続けてました。

しばらくして病院にいくと、左手は骨折していて、でも手術する必要なく、その時には治りかけていたんですが、
この時は、お客様の期待に応えたいという思いで乗り切っていました。


■これからの料理人へ

料理人として譲れない価値観は何ですか?

強いこだわりがあるタイプではありませんが、あえて言うなら「シンプルで分かりやすい料理」を提供することです。


若い料理人へメッセージをお願いします

昔は、若い人や自分の子供が
寿司職人を目指すといったら「大変だからやめた方がいい」と言っていたと思うのですが、。

今は、自分の仕事を通して海外で働けている経験もあり、考えが変わってきて、とても良い仕事だと感じています。。
大変なこともありますが、ぜひ挑戦して続けてほしいと思います。


これからの食の世界に必要な価値観は?

生産者や漁師の方々へのリスペクトと、それを支える仕組みだと思います。

私たちは食材があって初めて仕事ができるので、素材を提供してくださる方々への感謝と、その方々を社会全体で支えていくことが重要だと感じています。


最後に、AKIRAシェフにとって料理とは?

料理は『愛情』です。


本日はありがとうございました。

Akiraシェフの言葉からは、技術だけでなく「人に寄り添う料理」の本質を強く感じました。
これからも世界で広がる和食の可能性と、その担い手の歩みに注目していきたいと思います。

<番外:海外生活編>

■オーストラリアで働くということ

オーストラリアに来る前のイメージは?

ビーチやサーフィン、コアラやカンガルーといった、いわゆる一般的なイメージでした。


なぜ海外で働こうと思ったのですか?

メキシコに誘っていただいたことがきっかけで、海外に目を向けるようになりました。


なぜオーストラリアを選んだのですか?

もともとはシンガポールで働いていましたが、お店の閉店に伴い新たな場所を探す必要があり、エージェントの紹介でオーストラリアに来ることになりました。


日本とオーストラリアでの働きの違いは?

大きな違いはあまり感じていませんが、人件費の高さが影響している部分はあると思います。


オーストラリアで働く魅力やメリットは?

はい。今まで使ったことないオーストラリアの食材を工夫して使うことの楽しみもありますし、

日本ではあってもなかなか使うことができない有給休暇を使って、日本へ3週間から4週間年に2回帰ることができるので、そういった意味では、オーストラリアにいる間は仕事に集中して、日本に帰っているときは、家族に集中ができると言う自分自身にとっては良いメリットがあると思います。

自分は不器用なので、それぞれの環境で、仕事は仕事、家庭は家庭と、集中できるのは、とても良いメリットだと思います。


日本人がオーストラリアで働く強みは?

はい。あると思います。

特に和食においては、現状英語のハードルが高いため、例えばIELTS等の点数を取らなきゃいけないなどがあるため、なかなか入って来づらい状況があると思っています。

逆に言うと、まだ入る余地が残ってるとも言えるので、そういう意味では和食や寿司の料理人が自分の強みを活かして入ってこれる余地がまだあると思います。


オーストラリアの人にとって、日本食の受け止められ方は?

日常的なロール寿司と、体験としての日本食に分かれていると感じています。

私たちのような業態は、基本的には食事を通して体験を得るために来る場所だと考えられていると思っています。

日本によくいかれている方々は、日本を思い出したりできるような場所だと思いますし、まだ日本に行かれたことがない方にとっては、日本を疑似体験できるような場所として受け止めていただいてると思っています。

その期待に答えられるよう、日々努めています。


海外で働くうえで大切なことは?

日本人であることを忘れず、柔軟に対応することです。

海外に来ている時点で、自分は日本を代表して海外に来ていると思っているので、、
自分を通して「日本っていいな」と思ってもらえたら嬉しいです。


休日の過ごし方は?

洗濯や買い物が中心ですが、時間があれば他店で勉強したり、IELTSの勉強もしています。


オーストラリアでの印象的なトラブルは?

色々とトラブルがあるんですが(笑)、1番最近のトラブルで言うと、

つい最近ですが、
部屋に入ろうとしたら、なかなかドアが開かず開けたら、部屋のシャワーガラスが突然粉々に割れていたことです。

ただ、レセプションの方がすぐに別の部屋を用意してくれて助かりました。

いろいろなトラブルはありますが、いろいろな方にほんとに親切にしていただいて何とか乗り切れています。


■これから海外を目指す人へ

海外に行きたいと思ったら、できるだけ早く行動すること。

合わなければ帰ればいい。まずは一歩踏み出すことが大切だと思います。

オーストラリアに来る場合は、こちらでスポンサービザやPRのビザを取ろうとしている方に対しては、
日本でIELTSを取ってから来ることをおすすめします。


 

堀川顕(Akira Horikawa)

Omakase at Prefecture 48 ヘッドシェフ

Venues – Omakase – Australia’s Premier Japanese Culture Dining Precinct | Sydney

<経歴>

社会人としてのスタートは、小学校からの友人の家族が経営するスナックでのアルバイトでした。

さまざまなお客様と出会う中で、ある日コンピューター関係の会社を経営されている方から「うちの会社に来ないか」と声をかけていただきました。
ただ、当時はその分野にあまり興味が持てず、その旨を正直にお伝えしました。

すると「じゃあ何がやりたいんだ?」と聞かれ、
とっさに「料理の専門学校に行こうと思っています」と答えたところ、

「それなら、弟の店に行け」

と、そのまま千葉県市川市の割烹店へ連れて行かれました。

当時お会いしたその方は、私の記憶が正しければ元サッカー日本代表の選手で、
「お金を払って料理を学ぶより、お金をもらいながら覚えた方がいい」
という言葉は、今でも強く心に残っています。

こうして料理の世界に入り、いくつかの店で経験を積んだ後、銀座久兵衛へ。
約15年間、寿司職人としての基礎と本質を徹底的に学びました。

その後、シンガポールへ渡り、約30席規模の新規オープン店舗にてヘッドシェフとして立ち上げに携わり、約1年半現場を任されました。
ビジネスとしては結果を残すことができませんでしたが、その中でもお客様との関係性を築き、リピーターとなるファンを獲得することができました。
この経験から、規模やコンセプトに応じた戦略の重要性を強く学びました。

現在はオーストラリア・シドニーにてPrefecture 48 OMAKASEのヘッドシェフを務めています。

次にどこへ進むかはまだ決めていませんが、
これまで大切にしてきた「人との縁」を軸に、自分の進むべき道を選んでいきたいと考えています。

Takumi Kawano

President

日本で懐石料理を修業し、米国・豪州で料理長・総支配人として活躍。 医学・栄養学の視点を融合し、次世代の日本料理の可能性と知識継承に取り組んでいる。 Trained in Kaiseki cuisine in Japan, he served as Executive Chef and General Manager in the U.S. and Australia, sharing Washoku culture. Integrating medicine and nutrition, he explores the future of Washoku and is dedicated to passing on its knowledge.